supplod さんの「 たまこラブストーリー 」の感想 85点 たまこラブストーリー 「直角」映画 2022/5/30 色んな知り合いから「『たまこまーけっと』は正直そんなにだけど『たまこラブストーリー』はヤバいからそのために観る価値がある」的なことを言われてさんざんハードルを上げられていた。 しかしTVアニメ『たまこまーけっと』の時点でかなり好みだったので逆に不安だった。 結果として、ハードル上がり過ぎて期待外れ、みたいながっかり感はいっさいないが、期待を高く超えていくこともなく、普通にいい映画だった、という温度感。いや本当によく作られたいい映画だと思います、ほんと。 タイトルやメインビジュアルの時点で、幼馴染ヘテロ恋愛成就モノであることはわかりきっているので、そのうえでたまこの同性の友達みどりの恋愛をどこまで描き切るのかに恐る恐る注目しながら観ていたのだけれど、カミングアウトはせず、ヘテロ幼馴染恋愛の後押しをしてしまう切ない帰結でそこは肩透かしだった。しかし考えてみれば、本作が「人知れず失恋していく同性愛を描きつつメインはヘテロ恋愛」だったのに対して、数年後に作った『ユーフォ』そして『リズと青い鳥』では「ヘテロ恋愛を描きつつメインは同性愛もしくは同性間の感情(”引力”)を描く」ことへと舵を切っていて、その段階的な変遷に想いを馳せるのは興味深い。とはいえ、リズ鳥も成就ではなくすれ違いに終わっているので、二次創作が捗る「失恋エモ」をさらに超えてしっかり同性愛成就を描いてくれる日に期待。『平家物語』でも女性同士の関係(シスターフッド?)をメインにしているらしいけど、さすがにそれも同性愛ではないだろうし。 本作の内容に戻ると、『たまこまーけっと』を観ていて、たまこ達が所属する部活の「バトントワリング」という餅ーフだけが、作中で唯一「もち」要素との明確な繋がりが見いだせず、なぜバトントワリング……?と最後まで腑に落ちなかったが、本作までとっておいた、ということなのね。両端の白くてまるい部品、その間のバランスポイントは中心からは少しずれている(両端の重さが等しくないため)。それを「たまこ」と「もち蔵」を結ぶ糸電話に仮託して、トワリングの「投げて、受け止める」動作も告白行為に重ねている。とてもわかりやすい。 そのうえで、これまでは向かい合うふたりの部屋に(あいだの通りに対して垂直に)架かっていた糸電話が90度回って、過ぎ去ってゆく新幹線と平行なポジションへと移したふたりを水平引きカメラで撮る構図のなかに組み込まれる。糸はたわみ、糸電話としての働きはせずとも言葉が伝わるほどに近くなった距離。しかし声は幼いころから聞きなれた「こもった」声。とてもわかりやすい。 まごうことなき「直角」映画でした。牧野かんなさんサイコー! 家建てて♡ (そういえば、そのかんなさんの指導のもと、校内でたまこが告白の返事をしようと廊下の出会い頭にぶつかろうとするシーンで直截的に直角の「曲がり角」を利用してカメラもパンでとっていた。細田守『竜とそばかすの姫』の序盤シーンも思い出す。学校とは直角空間なのであった。) 糸電話に話を戻すと、のちの『リズ鳥』でも、向かい合う校舎を挟んで光の反射で(ディス)コミュニケーションを図る構図があり、そんなに好きなんですね……とは思った。 いちばんグッときたのは、もち蔵の告白を飲み込み切れないたまこが父から「ちょっと仕事休んでいいぞ」と言われ、トレードマークのもち型髪留めを外して、早朝の商店街を眺めるシーン。あの髪を下ろした新鮮さと、いつもと変わらぬ町の薄明を映していく手つきに泣けてしまった。 あーあと、本編ではデラちゃんを一切喋らせないのはいいですね。TVシリーズのファンタジー要素を劇場版では意図的に脱色して雰囲気の差異を出すのは『きまぐれオレンジ☆ロード あの日にかえりたい』を思い出しますね。 Tweet 2024-09-01 12:16:36
85点 たまこラブストーリー
「直角」映画
2022/5/30
Tweet色んな知り合いから「『たまこまーけっと』は正直そんなにだけど『たまこラブストーリー』はヤバいからそのために観る価値がある」的なことを言われてさんざんハードルを上げられていた。
しかしTVアニメ『たまこまーけっと』の時点でかなり好みだったので逆に不安だった。
結果として、ハードル上がり過ぎて期待外れ、みたいながっかり感はいっさいないが、期待を高く超えていくこともなく、普通にいい映画だった、という温度感。いや本当によく作られたいい映画だと思います、ほんと。
タイトルやメインビジュアルの時点で、幼馴染ヘテロ恋愛成就モノであることはわかりきっているので、そのうえでたまこの同性の友達みどりの恋愛をどこまで描き切るのかに恐る恐る注目しながら観ていたのだけれど、カミングアウトはせず、ヘテロ幼馴染恋愛の後押しをしてしまう切ない帰結でそこは肩透かしだった。しかし考えてみれば、本作が「人知れず失恋していく同性愛を描きつつメインはヘテロ恋愛」だったのに対して、数年後に作った『ユーフォ』そして『リズと青い鳥』では「ヘテロ恋愛を描きつつメインは同性愛もしくは同性間の感情(”引力”)を描く」ことへと舵を切っていて、その段階的な変遷に想いを馳せるのは興味深い。とはいえ、リズ鳥も成就ではなくすれ違いに終わっているので、二次創作が捗る「失恋エモ」をさらに超えてしっかり同性愛成就を描いてくれる日に期待。『平家物語』でも女性同士の関係(シスターフッド?)をメインにしているらしいけど、さすがにそれも同性愛ではないだろうし。
本作の内容に戻ると、『たまこまーけっと』を観ていて、たまこ達が所属する部活の「バトントワリング」という餅ーフだけが、作中で唯一「もち」要素との明確な繋がりが見いだせず、なぜバトントワリング……?と最後まで腑に落ちなかったが、本作までとっておいた、ということなのね。両端の白くてまるい部品、その間のバランスポイントは中心からは少しずれている(両端の重さが等しくないため)。それを「たまこ」と「もち蔵」を結ぶ糸電話に仮託して、トワリングの「投げて、受け止める」動作も告白行為に重ねている。とてもわかりやすい。
そのうえで、これまでは向かい合うふたりの部屋に(あいだの通りに対して垂直に)架かっていた糸電話が90度回って、過ぎ去ってゆく新幹線と平行なポジションへと移したふたりを水平引きカメラで撮る構図のなかに組み込まれる。糸はたわみ、糸電話としての働きはせずとも言葉が伝わるほどに近くなった距離。しかし声は幼いころから聞きなれた「こもった」声。とてもわかりやすい。
まごうことなき「直角」映画でした。牧野かんなさんサイコー! 家建てて♡
(そういえば、そのかんなさんの指導のもと、校内でたまこが告白の返事をしようと廊下の出会い頭にぶつかろうとするシーンで直截的に直角の「曲がり角」を利用してカメラもパンでとっていた。細田守『竜とそばかすの姫』の序盤シーンも思い出す。学校とは直角空間なのであった。)
糸電話に話を戻すと、のちの『リズ鳥』でも、向かい合う校舎を挟んで光の反射で(ディス)コミュニケーションを図る構図があり、そんなに好きなんですね……とは思った。
いちばんグッときたのは、もち蔵の告白を飲み込み切れないたまこが父から「ちょっと仕事休んでいいぞ」と言われ、トレードマークのもち型髪留めを外して、早朝の商店街を眺めるシーン。あの髪を下ろした新鮮さと、いつもと変わらぬ町の薄明を映していく手つきに泣けてしまった。
あーあと、本編ではデラちゃんを一切喋らせないのはいいですね。TVシリーズのファンタジー要素を劇場版では意図的に脱色して雰囲気の差異を出すのは『きまぐれオレンジ☆ロード あの日にかえりたい』を思い出しますね。
2024-09-01 12:16:36