supplod さんの「 劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。 」の感想

85点 劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。

「君と夏の終わり……」と流れ出す確定演出を何度も使えないのが劇場版の痛いところ

11/9(木)朝
劇場版あの花みた(2回目)
以前みたときは、TV版のクライマックスにさらに泣ける文脈の過去回想を上乗せしてきてこんなん反則やろ!と泣きながら思ったが、今回はそういう形での感動はあんまりしなかった。ただ、『あの花』自体への思い入れが増していて、そういう泣かせ演出以外のところで常に感じ入るものがあった。

総集編といいながら本編の1年後の後日談からの回想形式とか新規カットとか色々あるけど、いちばんの違いはTVシリーズと異なりsecret base確定演出が使い放題ではないところだと思う……
あと数々のカットで「秩父」の文字が露骨に推されてるのも、TV版からの、作品の社会的な位置付けの大きな変化を感じる。

それから、めちゃくちゃ今更ながら、『あの花』って幼馴染三角関係ものだと思っていたけど(それも間違ってはいないが)、厳密にはじんたんとあなる(たち4人)が元からの幼馴染関係で、そこに「外人=ノケモン」のめんまが新たに参入してくる……(そして両想いではあるものの最終的にはあなる-じんたんが結ばれ、めんまは “失恋” する)という構造で、完全にマリーの黄金律じゃん!!と気付いた。
ttや凪あすやここさけと違って、『あの花』ではめんまよりあなる派、ということはないのだけど……
まぁめんまとじんたんの出会いシーンの無いTV版では、あくまで幼馴染5人組の清算の話なのでヒロイン間の幼馴染性の優劣?は強調されておらず、むしろ故人であるめんまの方に過去や歴史の重みが纏わりついている。そういう話だからこそ自分は(TV版の)あの花が好きなのかもしれない。

じんたんとめんまの、生殖の可能性が原理的に断たれている両想い関係は、『まぼろし工場』の正宗と睦実の原型だなぁ……とも。
だからこそ「生まれ変わり」という(要素ではなく) “発言” のアイロニーが効いてくる。

見えもせず触れられもせず、本当にいるのかどうかわからない存在を、それでも確かにそこに "いる" のだと信じていく者たちを描いている点で、アニメを見るわれわれについてのアニメだとも見なせる。まぁ、こうしたメタ=ベタフィクション的読みは陳腐だが……
虚構を信じてもがいた末に、最後の最後で虚構が自分に微笑んでくれるという〈救済〉は、『さよ朝』や『まぼろし工場』との関連でも興味深い。たびたび映し出される武甲山の佇まいがまた……

2023-11-09 10:36:45