supplod さんの「 Lv1魔王とワンルーム勇者 」の感想

70点 Lv1魔王とワンルーム勇者

良い作品だとは思うが、1話での想定よりも真面目に政治ストーリーをやっていて好みからは外れてしまった

まず設定がおもしろい。わたしは異世界モノを基本的に観ず、現代日本モノを中心に深夜アニメを楽しんでいる。この作品も、はじめは『はたらく魔王さま!』のような、異世界から現実世界に勇者や魔王たちがやってくる”逆” 異世界転移モノかと思っていた(それなら観れる)が、なんと異世界転移などはしておらず、テンプレの異世界ファンタジー的な世界が、勇者の魔王討伐後、幾らかの時を経て急速に文明化して現代日本そっくりの風景になっているというひねった設定であることが明らかになる。これには称賛せざるを得ない。「異世界」とは何か、翻って「現実世界」とは何か、というラディカルな問題にこうしてコメディめいたやり方で見事に批評的に切り込んでいると評価できるからである。これは同時に「勇者」が魔王討伐後、一介の冴えない独身中年男性へと堕落しているという根本設定ともオーバーラップしており、魔王討伐の旅という非日常と、それが達成されたあとの平和で退屈な(政治的な)日常の関係を、世界を複数用意してファンタジックに隔てるパラダイムではなく、あくまで強引にでも連続的なものとして設定したところに慧眼がある。
また、元勇者マックスの描写は明らかに古典的な退役軍人男性や、ひいては戦争とは(今のところ)ほぼ無縁の現代日本における男性の保守的な自意識の戯画として見ることもできる。簡単にいえば「今の俺は駄目だけど、俺だって本当は……偉大な英雄なんだぞ!」という愚かしい自意識をくすぐるように作品の導線が敷かれている。むろんマックスは本当に勇者であり現在もなんやかんや力は持っているのだが、それはそれとしてうだつの上がらない卑屈な中年男性が都合よく自己投影したくなるような、それこそ一種の”ファンタジー”を提供している面はあり、そこに惹かれると同時に危うさも節々では覚えた。
そうした、中年男性の歪みのリアルさを引き受けつつ、肝心なところで上手くコメディへとかわしていく手腕はとても良かった。ここで自分がもっとも重要だと信じているのが、ワンルームに寄生する謎の幽霊である。勇者にも魔王にも存在を認識されず、ほぼ喋らず、ただ”いる”だけというなかなか振り切った造形がほんとうにすばらしい。彼女の正体が最後まで明らかにならないのもマジで良かった。あれで仲間だった魔法使いオチだったら台無しだったから。

魔王さまほんと可愛かった。母でも妻でも娘でもあるという、ヘテロ男性の欲望の具現化のようなキャラクターで、果たしてこのキャラに素直に萌えていいのかと引け目を感じるくらいであったが……。
コメディが基本的にずっとキレッキレなのでその調子を期待していたが、意外とちゃんと政治や戦争の骨太な話が展開されていて結構戸惑った。シリアスが最高潮に達するところで何度かコメディに流してくれたので助かったところはあるが、とはいえ全体としては思ってたジャンルのアニメではなかったかな、すごく丁寧でよく出来た作品ではあると思うが……という評価に収まった。

2023-09-27 21:55:55