lucky さんの「 おジャ魔女どれみ 」の感想

94点 おジャ魔女どれみ

観れば観るほど驚きが絶えない。『おジャ魔女どれみ』という作品、偶然的に傑作となったのではなく、必然的に傑作として生み出されたといわざるをえない(傑作というものは多かれ少なかれそうだが)。と言うのも、この作品は“魔法とは何か”というひとつの問いを誠実に検討しつくしたうえで作られているからだ。

『おジャ魔女どれみ』という作品では、“魔法とは何か”という問いにある種の答えを提示している。しかし、提示の仕方は、(例えばまどマギやFateなどがそうであるように)魔法の原理に関する設定をひたすらロジカルに詰めていくといったやり方ではないし、(例えばプリキュアシリーズがそうであるように)魔法がもたらす結果をはっきりした物理現象として形式化するといったやり方でもない。『おジャ魔女どれみ』ではむしろ、魔法というものの物語展開上での効果――つまり、ある魔法が、どんな人によって・何のために使われるのか――という点において、一定のルールを設けることでひとつの答えを浮かび上がらせている。

『おジャ魔女どれみ』において魔法が行使されるときのルールを2つだけ挙げる。
ルールの1つ目は、常識に染まっていない素直な人間が用いたとき、魔法はその効果を最大限に発揮するということ。
例えば、どう見ても魔女にしか見えない容姿であるマジョリカだが、第1話でどれみに「魔女だ!」と指摘されるまではほかの誰にも魔女だとはばれていなかった。また、「魔女だ!」と指摘することでどれみの魔女修行は始まった。どれみは、『魔女なんて実在しない』という常識に染まっていなかったからこそ、『魔女の見た目してる人が魔女』という当たり前の結論にたどり着けたのだし、たったそれだけの結論が、ふつうの少女を魔女へと変え始める最大の転機にもなったのだ。
そして、世の中で素直な人間の代表格と言えば、少年少女がそれにあたる。『おジャ魔女どれみ』において、魔法少女が少女でなければいけない必然性はここにある。
ルールの2つ目は、困った状況に対して魔法を発動しても、魔法が直接的に状況を解決することはなく、状況を混乱させるだけにとどまるか、おそろしく迂遠な方法で状況解決の手助けをするにとどまるということ。
どれみたち魔女見習いが魔法を使うとき、彼女たちはまだ高度な魔法に習熟していないがために、狙っていた効果と違う効果が暴発することはしばしばである。また、首尾よく狙い通りの魔法を出せたとしても、彼女たち子どもの状況認識が不十分だったために、事態の解決にはつながらないという場面がほとんどだ。状況を解決できずジャマばかりしている(ように見える)彼女たち魔女見習いはだからこそ“おジャ魔女”と呼ばれる。
しかし、魔法がうまくいかなくても、おジャ魔女のエピソードは困っている人々の状況がなんとなく解決する方向に転がっていく。おジャ魔女の魔法が状況を解決できないことは、翻って、魔女でも魔女見習いでもない普通の人々のなかに状況を解決できるチカラが秘められていることを示している。当たり前の人々が持つ当たり前のチカラこそ、魔法よりも偉大な真の魔法なのである。

つまり、『おジャ魔女どれみ』の物語としては、どれみ・はづき・あいこの3人が、日々、普通の人々には見られない非日常の景色を楽しみながら、その実、日常を生きている人間としての当たり前のチカラを健やかに伸ばしていく、という過程が中心になる。これだけでも、魔法の正体を明らかにするための洞察としては非常に優れたものだと思う。
しかしこの作品、これだけの展開では終わらない。途中から登場する新たな魔女見習い・おんぷが大きな波乱を呼ぶ。
おんぷという人は、『常識にとらわれない素直な人間には魔法の才能がある』という前述したルールから導き出されるひとつの問題を物語に対して再提起する。すなわち、『大人や社会が禁じている魔法を、子どもらしい素直さで使ってみたら、どんなことが起こるのだろう?』という問題だ。
おんぷさんの具体的な活躍模様は、ぜひ本編を観てもらいたい……。
(いやはや、ある世代より上のオタクが口をそろえて「おんぷちゃんはヤバい」と言っているやつ、実際に『おジャ魔女どれみ』を観る前は、単にキャラ造形がオタク受けする、という意味にすぎないと思っていたのだが……実際に観てみると、おんぷさんのヤバさというのは、おんぷさん自身のキャラ造形と、そのようなキャラを必要とするストーリーとの高度な嚙み合わせによるものだった、ということがわかった。歴史を変えたキャラは伊達ではない。)

『おジャ魔女どれみ』という作品、一つ以上の問いを出発点にして作られた作品として、非常によくできているし、まとまっている。それにとどまらず、続編ではその問いをさらに発展しながら継承しさえする。いまは『おジャ魔女どれみ♯』を視聴中だが、今後も見逃せそうにない。

2023-12-04 00:12:27