lucky さんの「 映画大好きポンポさん 」の感想

96点 映画大好きポンポさん

ずるい映画

思想を全部わかりやすい言葉でべらべらしゃべっちゃうし、その思想自体もことごとく普通であるポンポさんのことを序盤は結構不快に感じながら観ていたが、作品そのものの良さだけでなくありとあらゆる盤外戦術を許容して映画をどこかに連れていくのがこの世界における“プロデューサー”なのだということがあとからわかってきてすべて腑に落ちてしまった。
自意識が過剰であることや卑小であることはもはや現代における物語にはなりえない、ただ、人生のうちで自意識が急拡大あるいは急縮小して吐き気と共に高揚感が訪れる瞬間にこそ物語はあるのだ。自分が主人公であると錯覚した短い忘我の時間のなかで行われる賭けのなんと不法なことよ! 目的なき目的のために蕩尽される生命と資産のなんと多いことよ! この映画はどうしても自意識過剰で手あかのついた一品でなければならないし、「自意識過剰で手あかがついているがために佳い」なんて映画をわれわれは観飽きるほど観てきているのだ。

2023-02-05 01:58:55