supplod さんの「 ブラック★ロックシューター(OVA) 」の感想 89点 ブラック★ロックシューター(OVA) 00年代国産手描き深夜アニメのもっともピュアな精髄が結晶したかのような映像作品 なんだこれ…… 00年代国産手描き深夜アニメのもっともピュアな精髄が結晶したかのような画。映像。アニメーション。 このうえなくシンプルなプロットのうえで繰り広げられる、とんでもない絵コンテ・演出・作画・美術…… 「ああ、やっぱり自分はこの時代の深夜アニメがどうしようもなく好きだ」と思わされた。再確認させられた。 のちのTV放映リメイク版では、異世界(?)で戦闘を繰り広げるブラックロックシューター達はCGで描かれていたが、本作はすべて手描き。これがまた素晴らしく、TV版ではちっとも興味が持てなかった別世界側のパートまで食い入るように観ていた。ヨミに似ているデッドマスターさんの背中が大きく開いているデザインが好き。 もちろん、単に「やっぱCGより手描きでしょ!」論に与するわけではないし、現実世界での本編キャラを手描き、別世界での戦闘キャラをCG、と使い分けることで、ふたつの世界/パートの(存在論的な)コントラストをつけるというリメイク版の意図は十分に理解できる。ただ、そのうえで、CGで描かれたリメイク版を先に観たうえで、本編でのマト/ヨミと異世界でのブラックロックシューター/デッドマスターが "同じ" しかたで表現されること──そして、この50分間ではほとんど両世界の設定的な繫がりが説明されずに断絶したままに映像の次元で"連続"していること──に、なんだか途方もない感動を覚えてしまった。 もっと直截に言うと、正直ずっと「(2つの世界が)交わるな!交わるな!最後まで交わらなかったら神アニメ!交わらなかったら神アニメ!」と内心で唱えながら視聴していた。ので、終盤でマトとブラックロックシューターが"重なって"ふたつの映像世界が交わりかけてしまったのは心底残念ではあるが、ただ結局何が起こったのか/なんだったのかロクに説明も描写もしていないし、エンドロールを挟んでヨミ失踪事件は「解決」してまたいつの間にか日常がいるし、最後の最後には別キャラ(ユウ)の不穏なカットで続編を匂わせる終わり方をするしで、諸々を勘案すればセーフでいいでしょう。セーフということになりました。 TV版のシリーズ構成/脚本はわれらが岡田磨里で、じっさいテーマもストーリーもキャラクター描写も非常にマリーらしくはあったが、それが肝心の『B★RS』の設定・世界観と相性が良かったかといわれると微妙なところだ。こちらのプロトタイプ版を観て、やっぱりマリーじゃないほうがこの原作は活きるな、と確信した。OVAということでごく限られた人数のキャラによるドシンプルな脚本。マリーならもう少し人を増やして関係をややこしくして展開を過激にして台詞面でも「浮く」フレーズを散りばめるはずだが、それでは本作の奇跡のような佇まいにはならない。 キャラデザに関しても、TV版では良い意味であまり見たことがない独特なデザインを採用していてそれはそれで(映像のなかに配置されたときの質感も含めて)わりと好きだったが、OVA版は逆にどこまでも「見覚えのある」安心感のあるスタンダードなデザインで、これはこれでやっぱり大好きだった。 あとこれは自分のアニメ・リテラシーが低いだけだとは思うが、細田守っぽい(と勝手に思っている)演出が頻繁に出てきて興奮した。登下校時の遠景ショットはもちろんのこと、路地を通過するときにキャラを光→影→光と推移させる演出(『サマーウォーズ』etc.)、それから2年生になってクラスが分かれて休み時間の隣同士の教室を廊下側からパンで撮るカットは『おおかみこども』だ!と叫んでしまった。 とはいえ、本作を細田守フォロワーなどと呼ぶ気は毛頭なく、もっとオリジナルな──というか、(深夜アニメ的という意味での)オリジナリティがまったく存在しないという点で奇跡的にオリジナルなアニメ作品だと思う。コンテや構図、作画のセンスの良さだけでいったら現代深夜アニメでもこのレベルのものはあるのだろう(今期だと『DIY』とか?)けれど、本作の何が「いとおしい」かって、ひと昔前のアニメの絶妙にもっさりした佇まいがちゃんと存在し、むしろそれを基盤としてすべての完璧な要素が成り立っているところだ。ノスタルジーとピュアネスに於いてこれの右に出るアニメーションがどれだけあるだろうか。 Tweet 2022-12-17 07:47:31
89点 ブラック★ロックシューター(OVA)
00年代国産手描き深夜アニメのもっともピュアな精髄が結晶したかのような映像作品
なんだこれ……
Tweet00年代国産手描き深夜アニメのもっともピュアな精髄が結晶したかのような画。映像。アニメーション。
このうえなくシンプルなプロットのうえで繰り広げられる、とんでもない絵コンテ・演出・作画・美術……
「ああ、やっぱり自分はこの時代の深夜アニメがどうしようもなく好きだ」と思わされた。再確認させられた。
のちのTV放映リメイク版では、異世界(?)で戦闘を繰り広げるブラックロックシューター達はCGで描かれていたが、本作はすべて手描き。これがまた素晴らしく、TV版ではちっとも興味が持てなかった別世界側のパートまで食い入るように観ていた。ヨミに似ているデッドマスターさんの背中が大きく開いているデザインが好き。
もちろん、単に「やっぱCGより手描きでしょ!」論に与するわけではないし、現実世界での本編キャラを手描き、別世界での戦闘キャラをCG、と使い分けることで、ふたつの世界/パートの(存在論的な)コントラストをつけるというリメイク版の意図は十分に理解できる。ただ、そのうえで、CGで描かれたリメイク版を先に観たうえで、本編でのマト/ヨミと異世界でのブラックロックシューター/デッドマスターが "同じ" しかたで表現されること──そして、この50分間ではほとんど両世界の設定的な繫がりが説明されずに断絶したままに映像の次元で"連続"していること──に、なんだか途方もない感動を覚えてしまった。
もっと直截に言うと、正直ずっと「(2つの世界が)交わるな!交わるな!最後まで交わらなかったら神アニメ!交わらなかったら神アニメ!」と内心で唱えながら視聴していた。ので、終盤でマトとブラックロックシューターが"重なって"ふたつの映像世界が交わりかけてしまったのは心底残念ではあるが、ただ結局何が起こったのか/なんだったのかロクに説明も描写もしていないし、エンドロールを挟んでヨミ失踪事件は「解決」してまたいつの間にか日常がいるし、最後の最後には別キャラ(ユウ)の不穏なカットで続編を匂わせる終わり方をするしで、諸々を勘案すればセーフでいいでしょう。セーフということになりました。
TV版のシリーズ構成/脚本はわれらが岡田磨里で、じっさいテーマもストーリーもキャラクター描写も非常にマリーらしくはあったが、それが肝心の『B★RS』の設定・世界観と相性が良かったかといわれると微妙なところだ。こちらのプロトタイプ版を観て、やっぱりマリーじゃないほうがこの原作は活きるな、と確信した。OVAということでごく限られた人数のキャラによるドシンプルな脚本。マリーならもう少し人を増やして関係をややこしくして展開を過激にして台詞面でも「浮く」フレーズを散りばめるはずだが、それでは本作の奇跡のような佇まいにはならない。
キャラデザに関しても、TV版では良い意味であまり見たことがない独特なデザインを採用していてそれはそれで(映像のなかに配置されたときの質感も含めて)わりと好きだったが、OVA版は逆にどこまでも「見覚えのある」安心感のあるスタンダードなデザインで、これはこれでやっぱり大好きだった。
あとこれは自分のアニメ・リテラシーが低いだけだとは思うが、細田守っぽい(と勝手に思っている)演出が頻繁に出てきて興奮した。登下校時の遠景ショットはもちろんのこと、路地を通過するときにキャラを光→影→光と推移させる演出(『サマーウォーズ』etc.)、それから2年生になってクラスが分かれて休み時間の隣同士の教室を廊下側からパンで撮るカットは『おおかみこども』だ!と叫んでしまった。
とはいえ、本作を細田守フォロワーなどと呼ぶ気は毛頭なく、もっとオリジナルな──というか、(深夜アニメ的という意味での)オリジナリティがまったく存在しないという点で奇跡的にオリジナルなアニメ作品だと思う。コンテや構図、作画のセンスの良さだけでいったら現代深夜アニメでもこのレベルのものはあるのだろう(今期だと『DIY』とか?)けれど、本作の何が「いとおしい」かって、ひと昔前のアニメの絶妙にもっさりした佇まいがちゃんと存在し、むしろそれを基盤としてすべての完璧な要素が成り立っているところだ。ノスタルジーとピュアネスに於いてこれの右に出るアニメーションがどれだけあるだろうか。
2022-12-17 07:47:31